息を吸いにくい、なんとなく息苦しい感じが続く、といったことはありませんか?
息を最後まで吸い込めない、喉に何かがつっかえて空気が入っていきにくい、肺を大きく膨らませられない・・、などと感じられるかもしれません。
もしかすると、症状が続くため病院に行かれ、呼吸機能検査や胸部CTなどの検査を受けられ、
「異常なし」と言われた方もいらっしゃるかも知れません。
息を吸いにくい症状には、
たとえば煙草を吸い続けることによるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や、気管支喘息、心不全をはじめとした心臓の異常など、
さまざまな病気がかかわっている場合がありますが・・・
そのような、病院で見つかるたぐいのいわゆる「病気」ではなく、
大きく息を吸っているつもりでも、実は「本当に深い深呼吸」ができていないことが原因かもしれません。
目次
深い深呼吸ができない、ほんとうの理由
呼吸することそのものは、もちろん生きている限り、必ず可能なことです。
「深呼吸をしてください」と言われて、おもいっきり息を吸おうとすることも、できると思います。
しかし・・「本当に深い深呼吸」をするのは、実はさまざまなコツや知識、練習が必要になる、意外に難しい「技術」であったりします。
たとえば、息を吸うために使うべき筋肉が使えていなかったり、首の姿勢が悪いことにより、空気の通り道を狭くしてしまったりしていると、
「本当に深い深呼吸」をすることはできません。
そういった状態で、おもいきり息を吸ったとしても、
限られた範囲の中で、できるだけ大きく吸っているだけであり、
呼吸する能力を最大限に発揮した「本当に深い深呼吸」と比べると、
実は、浅い呼吸しかできていない、ということになります。
それが上に挙げさせていただいたような、息を吸いにくい、などといった症状につながる場合があるのです。
深呼吸ができず浅い呼吸になっていると、じゅうぶんな酸素を血液中に取り込むことができず、
いろいろな臓器が慢性的な酸欠になってしまうため、
疲れやすさや、疲れからの回復の遅さ、めまいやふらつき・・・といった、
さまざまな症状にまで関連してくる可能性があります。
本記事では、息を吸いにくい状態、慢性的に息苦しい状態を脱却するための「本当に深い深呼吸」を体得していただくため、
そのための練習方法や知識についてお伝えをしていければ、と思います。
深い呼吸のための、いちばん重要なポイント
まず大前提として、息は「鼻の奥で」「ゆっくりと」吸いましょう。
息を吸うときには、鼻からと口からの2つの道があるのですが、
鼻から吸ったほうが、鼻のフィルターを活用し細菌が気道に入るのを防いだり、空気を加湿し乾燥を防いだりすることができます。
また、ゆっくりと吸うことにより、肩まわりなど呼吸とあまり関係ない筋肉を緊張させることがなくなり、より深く息を吸うことができます。
そのため、息は鼻の奥で、5秒間くらいかけてゆっくりと吸いましょう。
それでは、「本当に深い深呼吸」の方法について、お伝えしていきたいと思います。
「本当に深い深呼吸」をするためには、「胸郭」を大きく動かす必要があります。
肺は、風船のように膨らむことで空気を取り入れるのですが、
肺自体に息を吸うための筋肉は無く、肺そのものには肺を膨らませる能力はありません。
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
青色でお示ししたのが、胸郭を構成する部分の骨です。
胸郭とは、心臓や肺を覆う、とても大きな骨の枠組みなのですが、
その胸郭が、上の動画のように、主に上下に、膨らんだり縮んだりするように動くことによって、
その中にある肺も、膨らんだり縮んだりして、それによって呼吸ができているのです。
そのため基本的には、この胸郭が大きく動けば、大きな呼吸をすることができます。
「胸郭」を大きく動かす方法
それでは、胸郭を大きく動かすためには、どうすればいいのでしょう。
胸郭を大きく動かすためには、息を吸うための「吸気筋」をじゅうぶんに働かせることが必要です。
吸気筋とは、息を吸うためにはたらく筋肉たちのことで、
これらの筋肉が収縮することで、胸郭を引き上げて、それによって呼吸をすることができるのです。
これら吸気筋をじゅうぶんに収縮させることができた場合、胸郭をじゅうぶんに拡げることができ、深い呼吸ができます。
一方で、吸気筋をじゅうぶんに収縮させることができない場合、胸郭をじゅうぶんに動かすことはできず、肺を大きく膨らませることはできません。
逆に「吐く」ときは、収縮した吸気筋がゆるむことで自然に胸郭が下にさがり、自然に空気が吐き出されるため、
それほど大きく筋肉を使う必要はありません。
そのため、まずは「吸気筋」をしっかりと使うことを考えるべきです。
これら吸気筋をじゅうぶんに収縮させるためには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
まずは、ご自身の吸気筋を、しっかりと意識することから始めましょう。
人間は、筋肉をちゃんと意識することで、その筋肉をちゃんと動かすことができます。
たとえば、「左」の上腕二頭筋(力コブの筋肉です)だけを強く意識しながら、「右」腕をおもいっきり曲げるのは難しいはずです。
右腕を曲げるのは、右の上腕二頭筋であり、この筋肉を意識しない状態だと、この筋肉は強くは働かないからです。
吸気筋についても同じです。ご自身の吸気筋を意識することで、
強く吸気筋を働かせることができ、大きな呼吸ができるようになります。
そしてご自身の吸気筋がどの場所に、どのような形でついているのかを知ることにより、
これらの筋肉を正しく意識することができ、しっかりと使うことができるようになるのです。
「吸気筋」は、身体のどこにあるのか
それでは、吸気筋は身体のどの部分に、どのような形でついているのか、見ていきましょう。
まずは、吸気筋の全体像をお示しします。
吸気筋は、「首」、「胸」、「腹」といった、身体の前側に広く分布しています。
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
赤っぽく表示した、すべての筋肉が吸気筋ですね。
そのため息を吸うときには、「首」、「胸」、「腹」を中心とした、からだの前側にある筋肉をしっかりと意識しながら吸うと、
吸気筋がじゅうぶんに働き、息を大きく吸うことができるようになります。
それぞれの筋肉について、少し詳しく見ていきましょう。
まず「首」にある筋肉についてですが、
首には、「胸鎖乳突筋」という吸気筋と、「斜角筋」という吸気筋があります。
胸鎖乳突筋は、胸骨・鎖骨から、側頭部の乳様突起という場所にかけて走る筋肉で、
斜角筋は、頸椎(首の骨)の横から、上のほうの肋骨にかけて走る筋肉です。
(用語がわかりにくい場合は、下の画像でざっくりとしたイメージをつかんでいただければと思います)
それぞれ、首を動かす筋肉ではあるのですが、
胸郭を吊り上げるように収縮することで、息を吸うのを助ける、吸気筋のひとつでもあります。
【胸鎖乳突筋】
【斜角筋】
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
息を吸うのに、首の前が関係しているというのは意外なようで、お話しすると驚かれることも多いのですが、
ここがちゃんと機能していないと、「首の前が詰まったかんじがして、息が入っていかない」といった状態になってしまうことがあります。
そのため、ここをしっかりと意識して呼吸することが大切なのです。
首の吸気筋は、「首の前をしっかりと使って、肋骨を引き上げる」ようなイメージを持つと、意識しやすいかもしれません。
次に、胸の吸気筋です。
胸の吸気筋は、肋骨のあいだに走る「肋間筋」です。
【肋間筋】
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
肋間筋は胸郭そのものについていますので、比較的イメージしやすいかもしれません。
これらが収縮することで、胸郭をしっかりと引き上げて、空気をじゅうぶんに吸い込むことができるようになります。
ここは、「胸郭をしっかりと引き上げる」イメージを持つと、使いやすいのではないかと思います。
最後に、おなかの吸気筋です。
おなかの吸気筋としては、まず、肋骨のいちばん下あたりの高さに、胸とおなかを区切るように「横隔膜」があります。
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
次に、胸郭と骨盤とのあいだに、おなかに巻くコルセットのように、
「外腹斜筋」「内腹斜筋」「腹横筋」の3層の筋肉があります。
【外腹斜筋】
【内腹斜筋と腹横筋】
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
これらおなかの吸気筋は、コルセットのように収縮することで、胸郭を下から持ち上げるように作用して、胸郭を引き上げてくれます。
おなかの吸気筋をうまく働かせるためには、「丹田」を意識した呼吸が有効です。
丹田の位置にはいろいろな意見があるのですが、一般的には、臍の下9cm程度の場所、と言われています。
ここに意識を集中しながら深く呼吸することで、おなかの吸気筋に意識が集まりますので、おなかの吸気筋をしっかり使った呼吸ができるようになると思います。
以上、「首」「胸」「おなか」にある吸気筋を知り、それらすべてをしっかりと意識し、動かせるようになることで、
「本当に深い深呼吸」ができるようになっていきます。
胸式呼吸、腹式呼吸、という言葉がありますが、
「本当に深い深呼吸」をするためには、胸だけ使えばいい、おなかだけ使えばいい、ということはありません。
特に、深く吸おうとするときは「首」「胸」「おなか」にある吸気筋たちを総動員させる必要があります。
吸気筋を正しく使えるようになるためには、使うための「練習」が必要です。
吸気筋について知り、それらを意識しながら動かす練習を重ねていくことで、
少しずつ、息を吸う能力がレベルアップしていきます。
慣れてしまえば、そう強く意識する必要もなくなっていくのですが、
特に慣れないうちは、どの部分が使えていないのか考えながら練習するのは重要なことです。
吸気筋の走行がイメージできたら、これらが正しく働いてくれるように意識しながら、何度も何度も練習をすることで、
ぜひ、「本当に深い深呼吸」を身につけていただければ、と思います。
深い呼吸を妨げる、意外な罠とは
吸気筋を意識し、動かせるようになることは、とても重要です。
しかし、ここに落とし穴があります。
いくら吸気筋を意識し、深い呼吸をしよう!と頑張ったとしても、
姿勢が悪いと、吸気筋は正しく働いてくれないのです。
フリー素材 PhotoACより引用
たとえば上の画像のように、「おなかが縮んで」「胸が下に落ちて」「首の前が縮んだ」状態だと、
身体の前側が縮んで、「首」、「胸」、「腹」にある吸気筋たちが、押し潰されてしまった状態になっています。
筋肉には、その筋肉が最大のパワーを発揮できる「適切な長さ」というものがあるのですが、
上のような状態では、吸気筋たちが、その適切な長さより短く押しつぶされた状態になっているので、
じゅうぶんに働くことができません。
そのため、深呼吸をしよう!としても、吸気筋をじゅうぶんに使った大きな呼吸をすることはできず、
「息が深く吸えない」・・となるのです。
吸気筋が押しつぶされた状態から脱却し、「本当に深い深呼吸」をするためには、
「おなかを伸ばす」「胸を張る」「首の前を伸ばす」ことによって、「身体の前側を伸ばした」姿勢をつくりましょう。
身体の前側をじゅうぶんに伸ばすことができれば、吸気筋をじゅうぶんに働かせることができ、
深呼吸をしよう!としたときに、ちゃんと吸気筋が働き、肺が大きくふくらむ「本当に深い深呼吸」ができるようになっているはずです。
姿勢のつくりかたに関しては、長くなってしまいますので、他の記事などで紹介していこうと思うのですが、
「深呼吸するとき、猫背のままでしないように注意する」といったことでも、じゅうぶんな効果が見込めると思います。
上の画像のような猫背姿勢だと、
たとえ吸気筋をじゅうぶんに意識できたとしても、
本当に深い深呼吸をすることはできません。
また注意点としては、身体の前側を伸ばすとはいっても、
伸ばせば伸ばすほど、胸を張れば張るほど良い!というわけでは無いということです。
上で申し上げましたように、筋肉には「適切な長さ」があるため、それより長く引き伸ばしすぎても、正しく動かせなくなるからです。
また、反りかえるほどに前側を伸ばしすぎると、今度は背中側の筋肉が短縮されしまい、固まってしまいます。
上の写真のような、反り返ってしまった状態がよくある間違いだと思います。
(ストレッチのために、一時的に大きく伸ばすのは大丈夫です。上のような姿勢で長時間生活するのが良くない、ということです)
身体の前側をじゅうぶんに伸ばすことが必要なのですが、
あくまでも、適切なバランスの中で伸ばすように心がけ、
極端な伸ばしすぎにはご注意ください。
デスクワークなどをしていて、身体の前側が縮んできたな。。と思ったら、
積極的に伸ばして、深い呼吸ができる姿勢を作り上げていきましょう。
姿勢を「キープ」し、深い呼吸を維持する方法
以上のように、深い呼吸をするためには、身体の前側がしっかりと伸びた姿勢が重要なのですが、
おなかや首の前が、伸ばしても伸ばしても、すぐに縮んでいってしまい、
姿勢を保ち続けるのがつらい。。という場合があると思います。
このような場合は、伸ばすのを妨げるように、特定の筋肉が固くなっている場合が多いです。
この固くなりやすい筋肉の代表的なものとして、おなかを伸ばしにくいときは「横隔膜」、首の前を伸ばしにくいときは「斜角筋」があります。
「横隔膜」をストレッチし、やわらかくする方法については、
「猫背を治すために、横隔膜をやわらかくしましょう」という記事にて解説していますので、
もしよろしければご覧ください(新しいタブが開きます)。
今回は、首のまわりにあり、首の前を伸ばすのを妨げる原因となりやすい「斜角筋」を伸ばす、
「斜角筋ストレッチ」というワークを、お伝えしていきたいと思います。
斜角筋とは、上でも説明を差し上げましたが、
頸椎から、上のほうの肋骨にかけてついている筋肉で、
肋骨を引き上げることで呼吸の動きを助ける、吸気筋のひとつになります。
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
この筋肉が、縮んで固まってしまうと、頭が前に出ていってしまい、また首を使った呼吸ができなくなってしまいます。
そのため、この斜角筋をやわらかくしていく必要があります。
斜角筋は、直接触れることはできませんので、間接的に押圧していきます。
まず、あごを少し上に挙げた状態で、首の前の、画像にお示しした位置を、
人差し指で軽く押さえます。
軽く押さえたままの状態で、すぼめた口から、5秒間くらいかけて大きく息を吸い込みます。
(呼吸は鼻の奥で吸うのが基本ですが、このワークでは例外的に、「口から」吸います)
そして口から息を吐くときに、指を離します。
吐くときも、5秒間くらいかけて吐きましょう。
押しながら口から5秒間吸い、離しながら口から5秒間吐き、押しながら口から5秒間吸う・・・
これを、首の前がじゅうぶんにやわらかくなるまで繰り返します。
注意点としまして、押さえる場所は、頸動脈が近い場所なので、
頸動脈を強く押さえないようにしてください。
このワークをするとき、押さえる場所によっては、指先にドクドクと拍動を感じられることがあるかもしれませんが、
感じられた場合は、その奥に頸動脈があります。
軽く押さえたくらいでは大きな影響はないのですが、
両側の頸動脈を強く押さえこみすぎると、一時的に脳血流が悪くなってしまい、めまいやふらつきなどの原因になってしまうかもしれません。
そのため、あくまでも「軽く」押さえることと、指先に強い拍動が感じられたら押さえる場所を少しずらすことで、
頸動脈を強く圧迫しないように気をつけてください。
上にお示ししたリンク先の「横隔膜ストレッチ」に加えて、
この「斜角筋ストレッチ」を行うことで、
おなかと首の前がやわらかくなり、頑張って姿勢を保とうとしなくても、身体の前側が伸びたよい姿勢が自然に保てるようになるはずです。
本記事のまとめ
①吸気筋の位置や走行を知り、正しく意識することでこれらがちゃんと働くように練習し、
②呼吸筋が正しく使いやすいように、身体の前側がじゅうぶんに伸びた姿勢をつくり、
③姿勢がどうしても丸まってしまうときは、「横隔膜ストレッチ」や「斜角筋ストレッチ」といった方法で縮みやすさに対処する。
以上を実践していくことで、呼吸をする能力がレベルアップしていき、ご自身の身体を「本当に深い深呼吸」ができる身体に変えていくことができます。
筆者自身も、冒頭でお話ししましたような、なぜか息が吸いにくい・・空気がなかなか入っていかない・・という症状があったのですが、
この記事で述べさせていただいたようなことを実践し、いまは吸いたいときにじゅうぶんに深い呼吸ができるようになり、
息を吸いにくい、などと思うことは無くなりました。
吸気筋をフルに使った、「本当に深い深呼吸」を身につけることで、
ぜひ、吸いたいときに吸いたいだけ息を吸える、快適な呼吸ができる身体を手に入れていただければ、と思います。