身体から、両腕を遠くに出すと、姿勢が悪くなり、肩がこりやすくなります。
両腕を上から出すと、さらに姿勢が悪くなり、さらに肩こりがひどくなります。
もしよろしければ、試してみてください。まず、椅子に座っていただいて、
そこから手をできるだけ前に、できるだけ上から出していってみましょう。
とても遠くにあるキーボードを打ちに、手を出していく感じですね。
いかがでしょうか。腕を出せば出すほど、両肩が挙がり、頭が前に出た、いわゆる猫背姿勢になっていきませんか?
この、「腕を遠くに、上から出してしまった」ことによる猫背姿勢は、デスクワークで、ついついとってしまいがちな姿勢だと思われます。
もし、椅子に座ったときには良い姿勢であったとしても、
腕の出し方を間違えることで、腕を出すタイミングで姿勢が崩れてしまうのです。
このような崩れてしまった姿勢では、約5kgもある頭の重さが正しく首の骨で支えられないので、
首肩にとても強い負担がかかり続けてしまいます。
身体の後ろがわの筋肉が伸びきってしまい、身体の前側の筋肉が縮みきってしまった状態が続くので、
それぞれ全体的に固まっていってしまいますし、
さらにはおなかが縮んでしまうので、腹式呼吸ができなくなり、
呼吸が浅くなる原因にもなります。
これらの症状をひとつひとつ自覚するのは難しいかもしれませんが、
こういった姿勢の崩れによる負担が積み重なって、
デスクワークで「すぐに肩がこってしまう」ことの一因となっていると考えられます。
デスクワークでは、キーボードでのタイピング作業や、紙とペンを使った筆記作業の割合が大きいと思いますが、
こういった作業における「腕の出し方」が実は、姿勢の崩れにとても大きな影響を与えています。
目次
肩こりを防ぐ!腕の出し方のコツと、体得のためのワーク
この「腕の出し方による姿勢の崩れ」を防ぐためには、
腕を「近くに、下から」出す、というのが重要なコツになります。
腕を正しい方法で「近くに、下から」出すことで、
腕を出すことによる姿勢の崩れを、最小限に抑えることができるのです。
しかし、腕を「近くに、下から」出すと言っても、具体的にどのように出せばいいのか、
なかなかわかりづらいのではないか、と思います。
そのため以下に、腕を正しく「近くに、下から」出す感覚を体得するためのワークを、ご紹介したいと思います。
たったの3ステップですので、ぜひ、やってみましょう!
まず、椅子に座りましょう。
① いちど両腕を、大きく外側に捻りましょう。
同時に、おなかを伸ばして、胸を張ります。
このとき、からだが後ろに反っていかないように注意しましょう。
② その腕や肩の状態のまま、肘だけを曲げることで、手を前にもってきます。
てのひらが天井を向いた状態になると思います。
③ その状態から、肘や肩の状態はできるだけ崩さずに、肘から先だけをくるりと、てのひらが地面を向くように戻します。
このときの手の位置が、姿勢を崩さないための正しい手の位置です。
この姿勢をつくったら、手がある位置にキーボードやマウスを配置しましょう。
以上のワークを行ったあとであれば、両肩が下がり、頭が後ろに引かれた、
比較的良い姿勢になっているのでないか、と思います。
この状態をつくってから、この状態をできるだけ崩さないように作業をしましょう。
また、最初のうちはどうしてもまた崩れてしまうので、崩れてしまうたびにこのワークを行いましょう。
補足としまして、腕は近ければ近いほど、下から出せば出すほど良い!というわけでもないので、注意が必要です。
あまりにも極端に近すぎ、下から出しすぎになると、
身体が反り返ってしまい、いわゆる反り返りタイプの不良姿勢となってしまいます。
また、ここまでではデスクトップパソコンでの作業を前提に話をさせていただきましたが、
ディスプレイとキーボードを分離できないノートパソコンでは、すこし工夫が必要です。
キーボードをあまりに身体に近づけすぎると、
ディスプレイまで身体に近づきすぎてしまい、それを覗き込むために強い首猫背になるからです。
そのためノートパソコンでは、首猫背にならないくらいまでディスプレイを遠ざけ、
そこまで手を遠ざけるしか無い場合が多いのです。
そういった場合でも、手をちゃんと下から出せば、姿勢はそう大きくは崩れません。
ノートパソコンの場合は、上の画像のような姿勢になると思います。
ここから、頭をディスプレイに近づけていってしまうと、せっかくの姿勢が崩れて台無しになってしまいますので、
ディスプレイは、頭の位置はそのままで、目線だけで見下ろすようにしましょう。
「やわらかく見下ろす」よう意識すると、うまくいくかもしれません。
手を遠ざけるしか無い場合は、手を下から出すことをしっかりと守り、
姿勢の崩れを最小限におさえましょう。
なぜ、「腕の出し方」を間違えると、姿勢が崩れてしまうのか?
デスクワークにおける「腕の出し方」によって、姿勢が崩れたり崩れなかったり、ということが変わってきます。
これには、解剖学的な理由がありますので、少し、詳しく話をさせていただきます。
(難しい場合は、ざっと流していただいて問題ありませんので、まずは上のワークを習慣づけることを優先していただければと思います)
さまざまなポイントがあるのですが、もっとも重要なポイントは、
手を遠くに出したり上から出したりすることにより、「肩甲骨が上方回旋してしまう」という点です。
肩甲骨は、腕が直接つながっており、体幹部に接する、いわば「腕の土台」とでも言える大きな骨です。
(青色に示された骨が肩甲骨です)
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
この肩甲骨の正しい位置は、基本的に、上の画像でお示ししたくらいの位置になるのですが・・・
身体から手が離れていけばいくほど、また上から手を出せば出すほど、
肩甲骨が「上方回旋」という、円を描くように上にいく動きをしてしまいます。
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
肩甲骨が上方回旋すればするほど、肩が挙がってしまい、それに伴って頭も前に出てしまい、猫背になることがわかっています。
そのため、手を遠くに出したり上から出したりすると、姿勢が悪くなっていくのです。
(肩甲骨を、あえて強く上方回旋させてみると、わかりやすいかもしれません)
手を近くに、下から出すと、肩甲骨を正しい位置に固定したまま、上方回旋を防ぎながら手を前に出すことができます。
そして今回紹介させていただきましたワークをしっかりと行うと、
さらに強力に、肩甲骨の上方回旋を防ぐことができます。
そのため、今回紹介させていただいた腕の出し方は、姿勢が崩れにくい腕の出し方、と言えるのです。
まとめ
腕を「遠くに」「上から」出すことで、姿勢が崩れ、
デスクワークでの肩こりにつながってしまいます。
医学的には「頚肩腕症候群」や「キーパンチャー症候群」、
「VDT症候群」と言われるような症候にも、かかわりがあるでしょう。
そして、腕を「近くに」「下から」出すことで、姿勢の崩れを防ぎ、
長時間でも肩がこりにくいデスクワークを、実現することができます。
人間が椅子に座っている時間は、もちろん人によって大きな差があるものの、
起きている時間の6割程度もあると言われています。
たとえばIT系の仕事など、デスクワークメインの仕事の方であればもっと長いことも多いでしょう。
筆者自身も、デスクワークが多い生活を送ってきたのですが、
姿勢についていろいろと考え始める前は、無意識のうちに上記したような、
間違った腕の出し方による崩れた姿勢をとっていた時間が長かったと思います。
恐らくはそのことが大きく影響して、デスクワーク中に強い肩こりや不調となってしまったり、
座っていないときでも頭痛などの症状を起こしてしまうことが多くありました。
座る姿勢自体が身体に悪いことは、さまざまな研究により分かっており、
できるだけ座らない生活をするほうが良くはあるのですが・・
現実には、そうもいかないことが多いと思います。
それならば、できるだけ疲れにくい座り姿勢を身につけ、できるだけダメージから身体を守ることを考えるべきだと思います。
身体のダメージを防ぐ座り方というのは、とても難しく、
本記事に挙げさせていただいた以外にもさまざまなコツがあり、
筆者も日々、試行錯誤を繰り返しているのですが・・
練習や工夫を繰り返すことで、少しずつ確実に、以前より身体へのダメージが少なくなっていきますので、
本記事でお伝えいたしましたワークを何度も何度も行っていただき、「肩こりが起きないデスクワーク」を体得するための助けにしていただければ、と思います。