正しい「腰の姿勢」を作れば、腰の「強さ」が上がり・・
腰痛やぎっくり腰が起きる可能性を減らすことができます。
以上が、本記事でお伝えしたいことの要約です。
腰は、腰まわりの背骨が「正しい配列」になっている時・・・
つまり「腰の姿勢」ができている特に、いちばん強くなります。
しかしながらこの配列は、整えるよう気をつけていないと、すぐに崩れてしまいます。
そして腰痛やぎっくり腰は、「腰の姿勢」が崩れてしまった状態で、長時間の生活をしたり、「強い負荷」をかけてしまったときに、起こります。
そのため、正しい腰をつくるための背骨の配列を知り、それを作った状態で生活したり、ものを持ち上げたりすることが、腰痛を防ぐためにとても重要なのです。
それでは正しい「腰の姿勢」をつくるためには、
具体的に、腰をどのような形にすればいいのでしょうか?
丸まればいいのか?反ればいいのか?それとも、まっすぐな感じがいいのか・・??
以下、順番に、解説をしていきます。
目次
腰痛を防ぐための、強い「腰のアーチ」とは
腰痛やぎっくり腰を防ぐための、強い腰の姿勢をつくるためには、
正しい「腰のアーチ」を作る必要があります。
書籍「ネッター解剖学アトラス」より引用
上の画像は、人間の背骨のうち、腰部分の骨をお示ししたものなのですが、
この部分の背骨は、「腰椎」と「仙椎(仙骨)」とに分けられます。
そして正しい腰のアーチは、「腰椎が前弯し、かつ仙椎が後弯した状態」です。
書籍「ネッター解剖学アトラス」より引用
筆者の腰で再現してみると・・・
上の写真のような感じですね。
この、腰椎の前弯と、仙椎の後弯とが、「同時に」できた状態、というのがポイントです。
仙椎が前弯して、後ろに反り返ってしまっている状態が、「反り腰」という悪い状態です。
腰椎が後弯してしまっている状態が「腰猫背」という悪い状態です。
いわゆる、骨盤後傾の状態ですね。
「反り腰」と「腰猫背」は、いずれも代表的な、悪い腰の姿勢です。
いずれの場合でも、正しい腰のアーチがある状態よりも、腰の強度は低くなり、
いずれの場合でも、正しい腰のアーチがある状態に比べて、腰痛になりやすくなります。
そのため、腰椎の前弯と仙椎の後弯とを「同時に」作り上げるのが重要なのです。
とはいっても、「腰椎を前弯させてください」「仙椎を後弯させてください」と申し上げましても、
なかなか難しいものではないか、と思います。
そのため以下に、「腰椎を前弯させる」感覚をつかむためのワークと、
「仙椎を後弯させる」感覚をつかむためのワークとを、お伝えしていきたいと思います。
第一のアーチ、「腰椎の前弯」
まず、腰椎を前弯させる感覚をつかむためのワークです。
たったの4ステップですので、ぜひやってみましょう!
① まず、鼠径部に両手を当てましょう。
② 次に、おなかを伸ばすように、大きく胸を張ります。
胸郭を、斜め上に引き上げるよう意識すると、やりやすいと思います。
③ 鼠径部に当てた手を軸に、すこし、おじぎをしましょう。
角度としては、だいたい35度くらいです。
④ その腰の状態をキープしたまま、上体だけをまっすぐに戻します。
このとき上体を戻しすぎて、後ろに反り返っていかないようにご注意ください。
上体を完全には戻しきらず、9割ほど戻すよう意識すると、うまくいくかと思います。
ここまでの4ステップで、正しい「腰椎の前弯」ができあがります。
もしかすると、胸から背中にかけて背骨に、大きなアーチができたように感じられるかもしれません。
しかしここまでの状態だと、仙椎が前弯し反り返ってしまった、反り腰の状態になっていると思います。
そのため上記のワークを行ったあとに、「仙椎の後弯」をつくるために、以下のワークも行っていきます。
第二のアーチ、「仙椎の後弯」
次に、仙椎を後弯させる感覚をつかむためのワークです。
こちらは、たったの2ステップです。
① まず、両手を重ねて下腹部に当てます。
② 次に、重ねた両手を背中にくっつけるように、おなかをへこませます。
たった2ステップではあるものの、
2ステップ目の、おなかをへこませる動きが意外と難しいので、ご注意ください。
当てた手を、おなかの中に引き込むように動かすと同時に、
仙椎がちゃんと後弯するように、尾てい骨を股の間にしまいこむように動かします。
また、仙骨をさらに締め込むようにおしりの筋肉を締めると、より良いでしょう。
このワークを正しく行うことによって、「仙椎の後弯」をつくることができます。
以上にお示ししました2つのワークを行うことで、「腰椎を前弯させる」「仙椎を後弯させる」動作がそれぞれ、身についていくと思います。
慣れてしまえば、ひとつひとつワークの工程を踏まなくても、「腰椎を前弯させよう!」「仙椎を後弯させよう!」としただけで、正しくそれができるようになります。
繰り返し練習することで、動作のレベルは少しずつあがっていきますので、ぜひ、チャレンジしてみましょう!
ふたつのアーチを「同時に」つくるのがコツ!
以上、腰椎を前弯させるためのワークと、仙椎を後弯させるためのワークとをお示ししましたが、
重要なのは、腰椎の前弯と仙椎の後弯とを「同時に」つくることです。
腰椎だけをおもいっきり前弯させようとすると、仙椎もその動きにひっぱられて前弯し、反り腰になってしまいます。
同様に、仙椎だけをおもいっきり後弯させようとすると、腰椎もその動きにひっぱられて後弯し、腰猫背になってしまいます。
そのため腰椎の前弯か仙椎の後弯、どちから片方だけを作ろうとすると、腰の姿勢はむしろ悪くなってしまうのです。
上記のワークを通じて体得した、腰椎を前弯させる動きと、仙椎を後弯させる動きとを「同時に」行うことで、
ふたつの動きがぐっと「拮抗」して、背骨ががっちりと締め込まれたような状態になるずです。
もし、ふたつの動きがうまく拮抗したとしたら、その状態が、もっとも強い「腰のアーチ」ができあがった状態です。
正しくアーチを描いた背骨は、自分自身の体重や、持とうとする物の「重さ」を最も効率よく支えることができる、ということがわかっています。
さらに、腰椎の前弯と仙椎の後弯とをうまく「拮抗」させ、締め込むことができると、腹横筋や腹斜筋といった、コルセットのように走るおなかの筋肉が正しく働き、重さを支えてくれます。
【コルセットのように走る腹筋:腹横筋と腹斜筋】
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
人間の骨格では、おなかの前、胸郭と骨盤のあいだの部分は、骨では支えられていません。
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
立っているときでも、この空間の上には頭や胸郭といった重いものがありますので、ここが潰れるように負荷がかかり続けます。
特に、重いものを持ち上げようとするときは、ここに瞬間的にとても大きな負担がかかってしまいます。
そしてここが潰れてしまえば、支え切れなくなった重さはいっきに、椎間板や腰まわりの筋肉などに掛かってしまうのです。
そのため腰のアーチを締め込み、腹横筋や腹斜筋をしっかりと使い、おなかの前が潰れないようにすることで、
負荷が椎間板など、腰の弱い部分に掛かってしまうのを防ぎ、腰痛になる可能性を減らすことができるのです。
普通に立っているときは、腰のアーチは、軽く締めこむ程度で大丈夫なのですが、
重いものを持つときには、掛かる負荷は大きなものになりますので、
そのぶん、よりしっかりと腰のアーチを締め込み、強い腰をつくらなければなりません。
ここまででお示ししました、「腰椎の前弯と仙椎の後弯とを、拮抗させるワーク」は、
日頃からなんども行うことで、腹横筋・腹斜筋・大殿筋などの、腰のアーチを作り上げるための筋肉が鍛えられ、強化されていきます。
やや複雑なワークですので、感覚をつかむのが難しいのではないか、とは思うのですが、
ぜひ、何度も挑戦していただき、腰痛を起こさない「強い腰」を手に入れていただければ、と思います。
ちなみに、腰痛を起こしてしまうタイミングとしては、
ものを持ち上げようとするときが、とても多いです。
そして、ここまででお示ししたワークでせっかく「強い腰」を作ることができたとしても、
ものを持ち上げようと低いところに手を伸ばすときに、腰が曲がって、姿勢が崩れてしまう、というケースがとても多いのです。
腰の姿勢をキープしたまま「ものを持ち上げる」ためには、もうひとつ、独特のコツがあります。
以下に、お伝えしていきたいと思います。
重いものでも、腰を痛めずに持ち上げる方法
ものを持ち上げようとするときには、腰のアーチをしっかりと締め込んだままで、
「股関節」から身体を曲げましょう。
股関節とは、大腿骨が骨盤にはまりこむ場所であり、以下にお示しする場所になります。
【股関節の位置】
Windows用アプリケーション「ヒューマン・アナトミー・アトラス」より引用
写真でお示しすると、鼠径部の、ちょうど指先のあたりになります。
ものを持ち上げるときには、ここからばきっと身体を折り曲げるように、おじぎをするように曲げましょう。
そうすれば、上のワークでつくった「腰の姿勢」を崩さずに、ものにアプローチをすることができます。
上のように、股関節から身体を折り曲げて・・
腰のアーチをしっかりと締め込んだままで、股関節をのばして、持ち上げていきます。
このとき、ものを真上に持ち上げようとすると、腰にがっつりと負荷がかかってしまうので、
筋力で真上に持ち上げるのではなく、後ろに重心移動していくことで挙げていくと、より良いでしょう。
前にあった物の重さが最終的に、自分の足までくるような感じですね。
しっかりと腰のアーチを保ったまま、最後まで挙げましょう。
股関節から身体を曲げるときは、頭が前に・おしりが後ろに、離れるように動いていきます。
また基本的には、持ち上げようとする動きに応じて、膝を曲げていきます。
応用編として以下の画像のように、片膝をついて、
腰の曲がりを最小限に抑える方法も有効です。
このポジションから、腰のアーチを崩さないように挙げていきます。
持つ対象の大きさや重さによっては、
この方法のほうがいい場合もあります。
ものを持ち上げようとするときは、股関節ではなく、「腰椎」から身体を曲げてしまうことがとても多いのですが、
腰椎から身体を曲げてしまうと、せっかく「腰のアーチ」を作ったとしてもそれが崩れ、意味がなくなってしまいます。。
上のような姿勢から、重いものを持ち上げると、
一発で、ぎっくり腰になってしまいます。。。
また、逆に反り返ってしまうことにも注意してください。
あくまで、上のワークでつくった「腰の姿勢」をできるだけキープしたまま、曲げていきます。
以上のように、身体を曲げるときには「股関節」から曲げると、姿勢を崩さずに、低い場所のものにアプローチすることができます。
現実には、このようにシンプルな状況ではなく、障害物があったりなどで正しい姿勢をとりにくい場合もあると思いますが、
難しい状況でもできるだけ、正しい「腰の状態」をキープしたまま作業できるよう、工夫をすることが重要だと思います。
労働者安全衛生機構「今日の腰痛予防対策マニュアル 2012年 介護・看護職版」より、一部を抜粋して引用
「股関節から体を動かす」というのは、ものを持ち上げるときに限らず、
さまざまな動作の基本となってくる、重要なコツですので、
ぜひ、繰り返し練習してみてください。
本記事のまとめ
「腰椎の前弯」と「仙椎の後弯」とを同時につくることで、このふたつを拮抗させるように締め込むことで、
強い「腰のアーチ」をつくりあげることができ、
腰痛やぎっくり腰が起きる可能性を減らすことができます。
さらに、ものを持ち上げたいときには「股関節」から身体を曲げることで、
腰のアーチを保ったまま持ち上げることができ、
腰痛が起きてしまう可能性を、さらに減らすことができます。
腰のアーチが崩れた状態で生活をしていると、ちょっとかがんだだけで腰を痛めてしまう、という可能性は大きくなってしまいますし、
腰を大きく曲げた猫背状態でものを持ち上げると、ぎっくり腰の可能性は跳ね上がってしまいます。
本記事でお伝えしたことは特に、たとえば運送会社や介護施設といった、腰に負担をかけやすい職業の方であれば、さらに重要なこととなるでしょう。
筆者は産業医として、さまざまな事業所にお伺いするのですが、
本記事でお伝えしたようなことを現場で直接お伝えし、
作業中の腰痛が、改善することは多いです。
本記事でお伝えした方法によって、すべての腰痛が改善する、とはもちろん申し上げませんが、
負荷に耐え、腰痛やぎっくり腰の可能性を下げることができる「強い腰」が手に入ることは確かです。
筆者自身は、それほど腰痛がひどい方ではなかったのですが、
本記事でお伝えしましたような知識をもとに、身体を動かすようになってからは、
腰に強い負担を感じたり、ものを持ち上げるときに腰を痛めたりすることはほとんどなくなりました。
腰痛やぎっくり腰に関して、悩まれている方に対して、
本記事でお伝えしました情報が、少しでも役に立ちましたら幸いです。